2025年6月6日

【読了】行人

少し仕事が忙しくなったのと、とても内容の深い小説だったので思うことがまとまらず、ひとまず記録のみです。


漱石の有名な小説「こころ」につながる作品ということですが、最後のHの手紙部分はまさに「こころ」と重なる人の心の機微に触れる描写がとても心に残りました。


弟よ、私の妻と一晩よそで泊まってきてくれないか――。
この世でいちばんわからないのは自分の心ではないだろうか。
繊細ゆえに孤立する主人公。名作『こころ』へと繋がる長編小説。
学問だけを生きがいとしている一郎は、妻に理解されないばかりでなく、両親や親族からも敬遠されている。孤独に苦しみながらも、我を棄てることができない彼は、妻を愛しながらも、妻を信じることができず、弟・二郎に対する妻の愛情を疑い、弟に自分の妻とひと晩よそで泊まってくれとまで頼む……。
「他の心」をつかめなくなった人間の寂寞とした姿を追究して『こころ』につながる作品。用語、時代背景などについての詳細な注解、解説を付す。Amazon HPより


上記のようなあらすじが書かれていますが、この小説は決して夫婦間や男女間の何かがメインテーマではないと思います。私が感じたのは、妻・直の存在は一郎の孤独を強調するためのような気がしました。


二人の関係がおかしくなってきたから一郎が孤独になった、というわけではないからです(ただ、直との関係がきっかけでより強く孤独を感じるようになったかもしれませんが)。

最初のパートの弟・二郎のさまざまなエピソードも面白かったのですが、最後の兄・一郎の友人Hの二郎への手紙は本当にぐっと来ました。


Hの一郎への尊敬の念と深い憐れみ、一郎が妻はおろか親弟妹にも心を開けなかったところに一筋の光が差し込むようなHへの微かな信頼(Hからの目線のみの描写ですが)。でもその信頼が孤独を癒すわけではないことも伝わってきて……。


こういうときに言葉でうまく感想を綴りたいのですが、それが苦手でもどかしいです。


それはともかく、「こころ」は高校生のときに読んだきりなのでもう1回読もうと思いますが、やっぱり夏目漱石の凄さをこの小説で再認識しました。


0 件のコメント: