(以下角川文庫HPより)
江戸川乱歩が激賞した表題作をはじめ、中篇3篇を収録。明治30年代、美貌のピアニスト・井ノ口トシ子が演奏中倒れる。死を悟った彼女が綴る手紙には出生の秘密が……。(「押絵の奇跡」)江戸川乱歩に激賞された表題作の他「氷の涯」「あやかしの鼓」を収録。
電車の中で読むとうっかり乗り過ごしてしまいそうになるくらい、夢中になって読みました。
【押絵の奇蹟】
3作のうち、表題作の「押絵の奇蹟」は私はイマイチだったなぁという感想です。角川文庫の説明では江戸川乱歩が激賞したとありますが…
ピアニストの井ノ口トシ子と歌舞伎役者中村半次郎のとある因縁にまつわるお話が、トシ子の手記という形で語られています。
2人の親同士の関係とトシ子と半次郎の関係。
結局どちらの関係も本当のところはどうだったのか…これを言うとネタバレになってしまうので感想を書くのが難しいところですが、私としては半次郎の手記もあったら良かった。じゃあ半次郎はどういう半生を送ってトシ子の演奏を見に来るというシーンに辿り着いたのか、それが知りたかったです。
それを読者の想像に任せるところがこの小説の真髄なのかもしれませんが…
それとももっと読み深めていったら何かほかの観点が見えてくるのかもしれません。そんな感じのちょっとモヤモヤの残る作品でした。
でもそのモヤモヤは悪い感じのものではなく、何度も読んでみたらまだ他に何か気づくことがあるかもしれないというような、ちょっと前向きなモヤモヤです。そうやってもう1回読んでみようと思わせるような作品なのかもしれません。
【あやかしの鼓】
「氷の涯」と「あやかしの鼓」は文句なしに面白かったです!特に「あやかしの鼓」は夢野久作という名での処女作だとどこかで見ましたが、作品としては完成度も高いなぁという感想だし本当に夢中になって読みました。
江戸川乱歩はこの作品を賞賛すべきじゃないの?と思ったのですが、読書メーターの感想を見たら、江戸川乱歩はこの作品をあまり評価していなかったというコメントがありました。そうなのかー。
どんなに呪われた鼓と言われていようともひと目見たい、一度でいいからその音を聴いてみたいと思わせる。そしてその鼓に取り憑かれ夢中になってしまい、なぜか身を滅ぼす方向に進んでしまう。そんな鼓のお話です。
途中、えっっっまさかの!?まさかの展開!?とびっくりしました。そこは想像だにしていなかった…という展開もあり、サスペンス好きにはたまらない作品だと思いました。
でもただのサスペンスではない。どこか悲しい、どうにもならない宿命みたいな部分も描かれていて胸が痛かったです。特に最後の一文は胸に刺さりました。昔、遠藤周作の「沈黙」の最後の一文に衝撃を受けた思い出があるのですが、「あやかしの鼓」の最後の一文もなんとも言えない気持ちになりました。
この鼓の呪いが解けたということを示す設定は、ほぉ!と思いました。
いやほんと、何度も読みたい作品です!
【氷の涯】
こちらが一番最初に掲載されている作品です。
ハルビンに派遣されている軍司司令部の下っ端の文学青年が、とある事件から人生がとんでもない方向へ向かっていきとうとうシベリアに逃げるまでに至った経緯を遺書という形で語ったもの。
ただたんにとある事件を推理していただけのところを、自分の豊かな想像力といろいろな人の勘違いが絡み合い、殺人、冤罪、逃亡そして死を決意するというところまでいってしまう。そういうお話です。
上2つの感想が長くなってしまったので、こちらは簡単にここらへんで終わりますが、この作品も良かったです。
3作品とも手記のような形で語られる物語でした。なのでその主人公になって物語にぐーっと入り込んでいくことで夢中になって読んだ感じでした。
今は何冊か併行して読んでいますが、次に先に読み終わるのは天地明察かな。こちらも面白くて夢中で読んでいます。
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